今年のまとめ・・感謝の言葉に尽きます。

医師会報記事より長い文章で恐縮なのですが転載します。今年は科を変更し再スタートの歳でしたが周囲に恵まれて以前より良い仕事に結びつけることができました。この講演内容にたどり着くまで沢山の方々のご指導とご支援を賜りました。ご指導してくださいました皆様、お世話になりました各領域の方々、全ての人々に心より感謝を申し上げ、幸せな人々の暮らしのために自身ができること、そしてお役に立てる・機能できる自分に成長できることを目標に来年も歩んで参りたいと思っています。2010年の全てに真心を込めてこの一言を・・・本当にありがとうございました。

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生活習慣病治療薬は多数の新薬が登場していますが、食事コントロールは未だ多くの課題を抱えています。日本の食の現状を知ること、そして健康食材である野菜の専門的知識が生活習慣病の指導にお役に立てると考えています。

1、 はじめに

学校教育での食育はすなわち食教育であり、資本主義・利益追従の食産業の根本を語らずして、農水省、厚労省、文科省それぞれがかみ合わない食育を学校教育現場で展開しています。本日の副テーマ:大人の食育は食で人生を導いてあげるという意味合いが込められています。画像診断からとらえた本人の身体の形態的変化、また血液検査データの異常値も社会の食や環境の変化によるところの結果、ということであれば食の現状を広く捉えることが効果的な食事指導につながります。また地域医療医として患者さんの生活に介入することの難しさをも痛感しましたが、「あきらめずに患者さんとコミュニケーションする」ことが日本の食の問題解決につながります。

 

2.日本の食が、日本人の身体が危うい

 生活習慣病の患者数の急増は今更取り上げるまででもありませんが、決して美食や暴飲暴食の結果ではありません。コンビニ食や安価な外食の利用者の増加、そして普段消費している食の半分は何らかの形で加工された食品です。エネルギーは充足されてもその内容は脂質過多、食物繊維やビタミン、ミネラル類の不足、精製されすぎてGI値が高い、抗酸化物質の不足などは定時定常で供給される加工食品の栄養学的な問題点です。

  食と健康についてどの分野の専門医でも定義している方はいません。10人いれば10人の食生活と健康状態。「定まっていない健康食の定義」の隙間を健康食品が入り込み、日常的健康食の追及が曖昧になっています。さらに若い女性の逖ヲせ、男性の肥満といった欠乏と過剰が混在しています。医療職や院内の食の環境も状況は同じで、食事指導においても炭水化物をどのように指導するかの一定の見解も得られていません。最近やっと日本人のエビデンスを集約し、日本人の食文化に根ざした食事指導をおし進める糖尿病専門医の方も出てきたことに安堵しています。

どの分野からでも「野菜摂取の増加」を推奨すること自体は問題なさそうで、医師・シニア野菜ソムリエとして「何を食べたらよいのか?」の疑問に答えるべく健康食を提案しようと考えましたが、日常食、健康的とされる伝統的な日本食や、その文化が消えつつあるということが解って来ました。回転寿司に見られるように「鮨がスシ」に、もちろんその質の低下は言うに及ばず。調味料は大量生産の安価なものが流通していますが、正しい醸造による調味料との風味の違いは明瞭、そういった商品を提供する日本の大手食品メーカーは足場を海外にシフトし、国内で日本の食を真剣に考えている中小の食品企業や農家さんたちは価格低迷に苦戦を強いられています。気象変動による野菜生産の影響も深刻です。野菜自体の味の低下そして栄養価の低下も無視できない状況です。

 

3.医療における野菜の位置づけ

食は1次機能:栄養学機能、2次機能:感覚機能、3次機能:生体調節機能に分類され、カロリー、PFCバランス、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの1次機能のほかに、脂質バランスやGI値、抗酸化物質などの3次機能まで考慮し食事療法を行うことが大切です。私が推奨するのはアンチエイジング医学に基づく食の提案、1.カロリーリストリクション仮説、2.酸化ストレス仮説から、伝統的日本食をアレンジすることで継続可能な健康食が実現します。

食と健康あるいは疾患の因果関係は疫学調査から説明されます。健康日本21では1日野菜350g以上摂取を推奨、がん予防からは400g以上とされています。

ガン予防と野菜・果物の関連は消化器系ガンについて「がん予防の可能性あり」、緑色葉野菜摂取は2型糖尿病のリスクを軽減する最近の報告が(1))あります。ワーファリン内服中の患者さんでビタミンKが問題になりますが、通常食されている野菜を一定量摂取している限りは問題になる事はなく、ワーファリン内服中の患者さんの管理は従来通りで今のところ良いとされています。ご飯を食べる前に野菜サラダを食べると、ご飯のあとに野菜サラダを食べるよりも食後血糖もインスリン血中濃度も上昇がおだやかになります。(2))

野菜ジュースについては様々な銘柄がありますが、栄養学的には今のところ一日に必要な野菜量1/5程度とされており、イメージが先行し実際は清涼飲料水の商品もありますので注意が必要です。

 

4.野菜・果物の美味しさを科学する

野菜が美味しくなくなり、栄養価が低下した、この事実は共通の原因があります。見栄えや収量を重視した品種改良、旬をずらず、施設栽培や水耕栽培の増加、収穫後の時間経過の問題から野菜が美味しくなくなり、栄養価が低下しました。

美味しい野菜とは、味・香り、色などそれぞれの野菜の個性を充分に持った野菜で、信頼できる農家さんか栽培したものが条件です。

野菜・果物で甘い・しょっぱい・酸っぱい・からい・苦い等の五味を知ることができます。

甘い野菜にはサツマイモ、かぼちゃ、トマト、とうもろこしなどですが複合糖質なのでGI値は高くありません。フルーツトマトなど果物並みの糖度を持つものも登場しています。しょっぱい野菜はアイスプラント、酸っぱさはPHで規定されますが多数の柑橘類がそれぞれの個性ある風味で感じることができます。辛さはトウガラシのカプサイシンで痛覚としての物理的刺激で英語ではhotと表現します。ショウガのショーガオール、わさび・大根系のメチルイソチオシアネートなどがありsharpと表現、揮発性のあるものは「鼻に抜ける」辛さです。苦みはカフェイン、お茶やワインのカテキン、ゴーヤのモモルデシンが有名です。

こういった野菜の風味そのものが植物化合物で、健康維持に役立つ成分として研究がすすんでいますが、まだまだ未解明なものも多く、情報の混乱もあります。健康食品には植物化合物の効能を前面に出した商品が多数見受けられますが、人での検証は不十分であり、緩い法の規制の中で様々な商品が存在し、中には健康被害の報告例もあります。

あくとされてきた成分は有害となるものは少なく、むしろポリフェノールをはじめとした植物化合物です。シュウ酸などの身体に影響するあくは、下ごしらえされる必要のある野菜に多い物質なのでさほど問題になりません。残念なことに品種改良で子供が嫌がる苦みやカット面が変色してしまうポリフェノールを少なくする品種改良も行われて来ました。美味しい野菜の追求のはずが、風味の奥深さが無く、しかも栄養価も低下した野菜が増えた原因の1つです。

野菜の色は植物化合物を反映しています。

赤:β―カロテン、紫:アントシアニン、黄色:フラボノイド、緑:クロロフィルです。カロテノイドは約600種類が知られており、野菜以外の食品にも含まれ、カニやエビの赤はアスタキサンチンです。ポリフェノールは-OH基を持つ植物化合物の総称で、外敵からの防御、種の保存のために必要な物質で、カテキン、イソフラボン、アントシアニンなどの大部分のフラボノイドが属します。-OHの部分が抗酸化に関与し、抗酸化物質としての働きが期待できます。

ポリフェノール含量がうたい文句の商品は多数見受けられますが、表示基準は無く、紛らわしい記載の商品も多数見受けられます。赤ワインに含まれていることで有名ですが、チョコレート、ココアやお茶などでも効率よく摂取できます。日常に食される野菜にも含まれており、1日400gの野菜とお茶2杯で充分量とも言われています。むしろポリフェノールを摂取しようと糖質やアルコール過剰になってしまうことには注意が必要です。フランスは心疾患が少ない一方でアルコール関連疾患が多い国でもあります。

 

5.炭水化物について

精製、未精製か、すなわち玄米か白米か、あるいは全粒粉のパンか白いパンかにより栄養価もGI値も異なります。雑穀も低GI食品で栄養価の高い食材ですが、配合比率やブレンドにより様々です。食後高血糖予防を食から考えると、GI値、食物繊維、未精製炭水化物、食べる順序(野菜サラダ→ご飯)、酢(胃内停滞時間を延長する)なですが、こういった小さな事柄を積み重ねることが食後高血糖を予防、生活指導時に会話のコミュニケーションが深くなることがメリットです。

 

6.先生方へのお願い

食の欲求も二極化しており、その人に応じた食の勧め方が大切です。自己実現型の上昇志向の方には少々値段が高くても優秀な食材を勧める、実はそこに岩手の一次産業の未来が重なります。安くお腹が満たされればそれで良いという方々には、通年価格が安定しているキャベツや大根といった指定野菜をすすめ、食べないように、ではなく食べるようにと患者さんへ提案出来る食材の1つです。

ブリアサヴァランの美食学に綴られていますが、真の美食は暴飲暴食の対極にあるものです。洗練された食文化を創造していくのは価値の解る先生方のお力に委ねられています。安価な食は日本の未来も日本人の身体も決して幸福にはしません。

生活習慣介入により脳卒中発症が有意に抑制されたとの報告があり(3))患者さんとの日々のコミュニケーション自体にも予防的意義があるといわれています。また、2型糖尿病患者さんへの初期の血糖管理の生活介入は介入後もその効果は持続し10年後の血管イベントを有意に抑制した、(4))これを遺産効果と名づけています。

 後世に健康で美しい日本食文化を残す活動も1つの遺産効果であり、私なりの活動テーマです。先生方のご理解とご協力をお願いいたします。

 

1)     Cartner P, et al : fruit and vegetable intake and incidence of type 2 diabetes mellitus :systemic review and meta-analysis. BMJ 2010 Aug 18,:41 c4229

 

2)     金本郁夫:低 Glycemic Index食の摂取順序の違いが食後血糖プロファイルに及ぼす影響、糖尿病53(2):96-101.2010

 

3)     Japan Diabetes Complications Study (JDCS)

 

4)     Holman RR, et al :10-year follw-up of intensive glucose control in type 2 diabetes .N EngJ Med 2008 ;359(15):1577-1589

よいお年を。1人でも多くの方が幸せを感じられますように。宮田恵。

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