寒じめほうれん草の機能性表示が消費者庁に受理されました。
野菜ソムリエとしての活動の主軸でしたので、達成したよろこびは大きいです。
寒じめほうれん草を知ったのは、農研機構の由比先生から。
「寒さを利用すると栄養価や美味しさが向上する」ということでしたが、ほうれん草は寒さにあたると生体防御反応で葉っぱが縮こまり地面に倒れます。どんなほうれん草でも寒じめ栽培技術により寒じめほうれん草となります。ほうれん草は品種ではなく栽培技術なのです。
県庁流通課とのイベントも開催。
もう14年も前でしょうか。久慈地区の川平さん(ほうれん草農家さんの代表)を訪問し見学させて頂きました。案内してくださったのは県の研究機関の方です。温度計を土に差し込み、「地温がマイナスになった時期がヌーボー」と。寒じめ栽培技術には「やり方」があります。
ところが、寒さにあたらなくても縮んだ形のほうれん草品種が開発され、岩手県でも大半の寒じめほうれん草栽培農家さんが導入しました。しかし埼玉や群馬などのほうれん草生産地でも導入され、「寒じめ」も「縮み」も同じに捉えられてしまい、「美味しい」にも関わらず価格差を出すことができませんでした。寒い中での農作業、収量に限りがある、不利な条件ばかりで、栽培農家さんも激減してしまいました。
宮城県石巻のあたりでは、太平洋気候で積雪がなく、露地のほうれん草は寒風に吹きさらしされて「縮みほうれん草」として売り出されています。ちなみに縮んだ形のほうれん草を品種改良したのは、宮城県の種苗メーカーです。冷蔵技術が不備であった遠洋漁業の船に、食料として船積みされたそうです。
温かい地域では生育が早く収量も多く、生産量では有利なのです。「どうして縮んだ形の品種を導入したのか!」と不満をぶちまけていた頃・・・当時、大学病院に勤務していた私に、1本の電話。「スミマセン、スミマセン」とひたすら謝る声が・・・。当時は何のことか解らなかったけれど、のちに「もともと縮んだほうれん草」品種を導入した担当者だったとか。「先生に怒られた」と周囲に漏らしていたようです(ごめんなさい)。
寒さにあてた(寒じめ栽培した)ほうれん草の美味しさの違いは歴然としています。食べ比べの会の企画も行い、プロの料理人にも判断してもらいました。
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味香り戦略研究所に分析を依頼したところ、明らかな味の違いが解りました(自分の味覚への自信)。
栽培技術をもっとPRするには・・・野菜ソムリエ小原さんと「寒じめほうれん草のうた」を制作。市役所、県庁職員、農研機構の研究者などなどと、CDまで作成。
時代は機能性成分へ。農研機構の研究もすすみ、寒じめ栽培をすると、ほうれん草フラボノイドが上昇(寒じめ日数が長くなるとフラボノイドも高くなる)、もともと多かった「ルテイン」は寒じめすると個体間のばらつきが少なくなる、ということも判明してきます。
個体間のばらつきが少なくなる、ということは、機能性表示した商品を市場流通ののせることにあたり非常に重要です。ルテインは目の黄斑部に集積し加齢黄斑変性症の予防に役立ちます(ヘルスクレーム:目の健康維持に役立つ)。ルテインだけならサプリメントでも良いということになりますが、ほうれん草はβーカロテン、葉酸、ビタミンKなども豊富で、生活者には健康野菜として重要です。
岩手の食材で毎日キュイジーヌマンスールは私が代表を努める任意団体ですが、食と健康に関わる補助事業を農水省から受け、小規模ながら色々な活動を行って参りました。
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そんな中、とある宴会で同席した岩手県生命工学研究センターの理事長から、岩手県機能性食材活用研究会の存在を知り、担当の矢野先生を紹介されました。北上市にある研究センターに立ち寄ったのは産業医の帰り道、そのとき寒じめほうれん草のルテインの研究業績集を渡されます。「これはなんとかしたい!!」農水省の補助事業をみつけ、大至急事業申請書を作成。実はその2か月前、ご縁だったのでしょう、JA新岩手の組合長のご自宅へ。事業の参加をぎりぎり朝1番の電話で済ませる事ができました。
補助事業は機能性表示登録にむけた活動の他に、機能性の知識の普及と健康都市づくりです。こちらは主に私の担当となり、野菜ソムリエ大阪支社、東京などで講義をさせていただきました。こちらの活動では食と農の健康研究所所長:渡辺正彦先生から硝酸体窒素について多くの指導をいただきました。悪者扱いされてきた硝酸体窒素が生体内ではむしろ機能性成分として利用されている事実は、ほうれん草を健康食材として紹介するうえで大変重要です。
売れてこその機能性表示食品。野菜ソムリエ協会理事長から「儲かる農業」について講演頂きました。
http://iwate-minceur.com/blog/?m=201710
野菜を医療にむすびつけるためのイベントも行いました。
2年にわたり農水省から補助を頂き、登録の準備をすすめましたが、生命工学研究センターの矢野先生の学術(システマティックレビュー)、(有)秀吉ならびに岩手の食材で毎日キュイジーヌマンスール事務局の渡邊さん、そして県職員、市の職員の方々の努力の終結のです。
昨年訪問した久慈のほうれん草農家さんの圃場。あれから月日は流れ、それぞれ歳はとりましたが、共通の目標と希望を持ちながら、ほうれん草産地としての岩手県の農家さんたちを応援していけたらと思います。